
発行日:2025年8月23日
出版社:現代俳句協会出版部
著者は「山河」代表
句集評および十五句抄出
敏倖曰く「第三句集『断片以前』上梓以来無我夢中であった。・・・『無限白書』は俳句という短詩形の無限の可能性を信じ、それに関わった記録という意味に過ぎない」。また作者はあくまでもは短詩形の俳句の未来の無限大の可能性を見詰つめつつ、常に俳句の新・真・深を追求して止まないのである。
湯冷めして誤植のような露地にいる 敏倖
ことばと格闘して幾星霜、数多の荒波を受けながら漸く辿り着いた俳諧の道、いま振り返ると冷や汗ものの連続であった。誤植を発見、収監されている罪悪感が消えることがない日、まるで露地で湯冷めでもするかのような心地であったと作者は回想している。
第一部
骨格は蛇の臭いのなるしすと
吊し柿まだ抵抗の色残す
はらわたに爆心地生る炎暑かな
こおろぎでおじゃれども身は隠岐の島
雨乞いの幣の描きし無限大
1句目 俳人はややもすると新しいがり屋の自己陶酔型かも。 2句目 晩歳こそが闌(たけなわ)であると詠う。3句目 今年の夏の異常気象と原爆投下のと取合わせの句、どちらも荒ましい。4句目 蟋蟀の啼く隠岐の島は後鳥羽天皇流刑の地である。5句目 旱の時の喜雨の一滴ほどありがたいものはない。その喜びを無限大と表現する。
第二部
八月の修正液は火の匂い
水中花もう後悔は置いてきた
七種粥明朝体のリズムかな
いつか捨てたボクが枯野でいきている
一睡の無限紀行や西行忌
1句目 8月の6日、9日、15日は修正液ではとても消せない。 2句目 「後悔先に立たず」とは格言、水中花が全てお見通しと詠う。3句目 句集を編む時にふと湧いてきた一句である。明朝体のリズムが名句集を生む。4句目 純粋無垢な詩ごころが伏流水となって湧き出て来る。5句目 俳人は只管歌を求めて旅を続けるものなりと作者は詠う。
第三部
たましいの無限白書や敗戦忌
碑の古歌よりしじみ蝶生まる
モノクロの昭和がふっと咳をする
存在と無と戦争とさくらかな
1句目 「長埼は終の被爆地」という白書。2句目 広島や長崎の被爆者の石碑より生命の誕生。3句目 忘れてはならぬ昭和。4句目 桜咲く日本は美しいと作者は詠う。
記:長井寛