
発行:2025年6月22日
朔出版
著者は超結社「朱夏句会」代表
句集評
赤い羽根見知らぬ人と触れ合う息
この句は、社会福祉活動の象徴である「赤い羽根」を手にした瞬間、見知らぬ他者と心を交わす経験を詠んでいる。「赤い羽根」は募金活動の印であり、「触れ合う息」という繊細な接触に焦点を当てることで、一瞬の温もりと秋の空気の冷たさの対比が浮かび上がる。気配、吐息、距離感。社会的な接触が身体感覚として還元されてゆく。「息」という語が、「赤い羽根」を胸に挿してもらう一瞬の緊張感、あるいは対話や共感、優しさを含んだ空気感を繊細に伝えている。短い語数の中に、社会と個人の交錯する瞬間を鮮やかに捉えている。まさになつさんが後書きに記しておられる「感覚の想起」が生じる秀句です。なつはづき第二句集『人魚のころ』は、日常の些細な出来事や視覚的な場面に、記憶や感情、聴覚や嗅覚を呼び覚ます「詩的感覚の回路」が通っている。「感覚の想起」とは、〈生きた一瞬〉として俳句に詩情を持ち込む仕掛けのことかもしれません。そんな十五句を抄出させていただきます。
十五句抄出
野良猫に名前を付けて月涼し
穴馬がくるぞくるぞと着ぶくれて
嚏して守衛は顔を取り戻す
蛇いちご母をまっすぐ見られぬ日
空耳はわたしの余白桃熟れる
足裏の恥じらうプール開きの日
猫のような返信の来て雪しずり
桜東風かつて背びれのあった頃
思い出が棒立ちになる鰯雲
ドッジボールずどんとバレンタインの日
髪切って人魚をやめる青水無月
お互いの檸檬無言で絞り合う
嘘つきの顔半分はソーダ水
臨月の腹万緑に押し返す
水中花名を呼ぶだけのひとり言
記:川森基次