
発行:2018年2月22日
現代俳句協会
著者は「海原」同人
句集評
併合の時代語らず春の宵
葱坊主父は信条語らざり
尼となりし子細聞かざり花辛夷
「語らない」という選択によって、人物の深さや確かさを静かに浮かび上がらせる。沈黙は忘却ではなく、むしろ記憶の重さゆえの静けさ。そして「語らない」なにごとかの重さを聞き手たる作者は知っているということ。「聞かない」ことは冷淡ではなく、相手の人生を尊重する一つの方法であること。言外におかれたのは作者には作者の語らざる子細があるということ。「春の宵」「葱坊主」「花辛夷」を取り合わせた作者の<無垢>が本句集全編を貫いている。<無垢>は単なるナイーヴではなく、沈黙と余白の中に芽吹く静かな抵抗であり、現代の喧騒の中に、草花のように読者の心にやさしく根を張る存在のことである。村本なずなの作品に触れたものは小さく静かに震えるはずだ。特に心揺さぶられた15句を書き留めさせていただきます。
十五句抄出
世話焼きのイム氏早口柳の芽
如才なき人を離れて落葉踏む
薺摘む地球をすこし傷つけて
生き急ぐ勿れ鯛焼き召し上がれ
フクシマよ首夏を痩せゆく馬の瞳よ
青芝の二人に別れなきごとし
孤立死の母子春霖の活断層
手加減なき少女の批評百合香る
鬼ごっこが恐い児木苺の真っ赤
烏瓜の花寂しくて噓つく子
輪踊のひとみな浄し風の盆
山々は音乾きたり通草の実
赤のまま橋に哀れな言い伝え
夕菅や少女童話を出たがらず
戯れに殺されしこと蜥蜴知らず
記:川森基次